ポン・ジュノ監督作『パラサイト 半地下の家族』(19)が米アカデミー賞作品賞に輝き、キム・ボラ監督の長編デビュー作『はちどり』(18)がコロナ禍の日本でスマッシュ・ヒットを記録。娯楽映画からアートハウス系の作品まで質量共に充実し、世界的に注目を集める韓国映画において、ひときわ特異な存在感を放ち続ける映画作家、ホン・サンス。24作目となる新作『逃げた女』は、第70回ベルリン国際映画祭で初の銀熊賞(監督賞)を受賞、2020年カイエ・デュ・シネマが選ぶベストテン2位に輝いた注目作だ。監督の公私のパートナーであり、パク・チャヌク監督作『お嬢さん』(16)でも鮮烈な印象を残した女優キム・ミニ(ニューヨーク・タイムズ紙が選ぶ「21世紀最高の俳優25人」にソン・ガンホと共に選出)との7度目のタッグ作であり、監督作品の常連俳優のソ・ヨンファ、クォン・ヘヒョ、『はちどり』のユジン先生を演じたキム・セビョクなど実力派が顔を揃えた。猫の名演技にもご注目!
ホン・サンス作品の代名詞ともいえる長回しや奇妙なズームアップの演出が、一見たわいない会話、登場人物の気まぐれな行動を通して、愛や結婚、さらには人間や人生の本質をユーモアと詩情豊かに描き出していく。果たして「逃げた女」とは誰のことなのか、そして、彼女は一体何から逃げたのか――。
ガミは、5年間の結婚生活で一度も離れたことのなかった夫の出張中に、ソウル郊外の3人の女友だちを訪ねる。バツイチで面倒見のいい先輩ヨンスン、気楽な独身生活を謳歌する先輩スヨン、そして偶然再会した旧友ウジン。行く先々で、「愛する人とは何があっても一緒にいるべき」という夫の言葉を執拗に繰り返すガミ。穏やかで親密な会話の中に隠された女たちの本心と、それをかき乱す男たちの出現を通して、ガミの中で少しずつ何かが変わり始めていく。
1982年3月1日生まれ。高校時代にスカウトされモデルとして活躍後、ドラマ「学校2」(99)で俳優デビュー。パク・チャヌク監督『お嬢さん』(16)の演技で、青龍映画賞最優秀女優賞、ディレクターズ・カット・アワードの最優秀女優賞を受賞し、国際的な注目を集めた。『正しい日 間違えた日』(15)以降、ホン・サンス監督作品に欠かせない存在として出演を重ね、本作『逃げた女』が7度目のタッグ作となる。『夜の浜辺でひとり』(17)では韓国人俳優として史上初の快挙となる主演女優賞(銀熊賞)に輝いた。その他の出演作に、イ・ジェヨン監督『純愛譜-じゅんあいふ-』(00)、『女優たち』(09、未)、キム・ジンソン監督『サプライズ』(02)、ノ・ドク監督『恋愛の温度』(13)、イ・ジョンボム監督『泣く男』(14)など。最新作は、ホン・サンス監督『INTRODUCTION』(21)。
1968年生まれ。韓国芸術総合学校で演技を学ぶ。主な出演作に、ポン・ジュノ監督『殺人の追憶』(03)、キム・テギュン監督『クロッシング』(08)、イ・ギュマン監督『カエル少年失踪殺人事件』(10)などがある。ホン・サンス監督作品には『よく知りもしないくせに』(09)以降、『教授とわたし、そして映画』(10)、『自由が丘で』(14)、『正しい日 間違えた日』(15)、『夜の浜辺でひとり』(17)、『草の葉』(18、未)に出演。
1974年9月13日、韓国、釜山生まれ。1996年、SBSスーパーエリートモデル大会で入賞し、1977年にドラマ「モデル」でデビューし、多数のドラマでも活躍。映画の主な出演作では、イム・ギョンス監督『盗られてたまるか』(02)、キム・ジフン監督『木浦は港だ』(04)などがある。ホン・サンス監督作品では、『浜辺の女』(06)、『次の朝は他人』(11)、『夜の浜辺でひとり』(17)、『川沿いのホテル』(19)に出演。
1986年10月24日、韓国、釜山生まれ。2011年にカン・ヒョンチョル監督『サニー 永遠の仲間たち』で俳優デビュー。インディーズ映画界に欠かせない若手女優として活躍している。主な出演作に、カン・ヒョンチョル監督『タチャ~神の手~』(14)、イム・スルレ監督『提報者~ES細胞捏造事件~』(14)など。河瀨直美監督がプロデューサーを手掛けたチャン・ゴジェ監督『ひと夏のファンタジア』(14)では百想芸術大賞映画部門新人女優賞にノミネート。2019年には、キム・ボラ監督の長編デビュー作『はちどり』のヨンジ先生役の演技で注目を集めた。ホン・サンス監督作品では、『それから』(17)、『草の葉』(18)に出演。
1965年11月6日、韓国、ソウル生まれ。漢陽大学校演劇映画科で演技を学び、1990年に舞台俳優として活動をスタート。1992年に映画デビューして以降、映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍し続けている。主な映画出演作に、オ・ギファン監督『ラスト・プレゼント』(01)、イ・ヨヌ監督『僕らの青春白書』(14)、オム・テファ監督『隠された時間』(16)、ヨン・サンホ監督『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20)など。ホン・サンス監督作品では、『3人のアンヌ』(12)、『あなた自身とあなたのこと』(16)、『夜の浜辺でひとり』(17)、2017年釜山映画評論家協会賞主演男優賞を受賞した『それから』(17)、アジアン・フィルム・アワードの助演男優賞にノミネートされた『川沿いのホテル』(19)に出演。
1961年10年25日、韓国、ソウル生まれ。監督、脚本家。韓国中央大学で映画製作を学んだ後、1985年にカリフォルニア芸術工科大学で美術学士号、1989年にシカゴ芸術学院で美術修士号を取得。アメリカ留学中に短編の実験映画を数多く製作した後、フランスに数か月滞在、映画鑑賞に明け暮れた。韓国に戻り、1996年に『豚が井戸に落ちた日』で長編監督デビューを果たす。男女の恋愛を会話形式で描くその独創的なスタイルから、“韓国のゴダール”、”エリック・ロメールの弟子“などと称され絶賛される。主な監督作に、イザベル・ユペール主演の『3人のアンヌ』(12)、加瀬亮主演の『自由が丘で』(14)、第68回ロカルノ国際映画祭グランプリと主演男優賞を受賞した『正しい日 間違えた日』(15)、第67回ベルリン国際映画祭主演女優賞(銀熊賞)に輝いたキム・ミニ主演の『夜の浜辺でひとり』(17)など。本作『逃げた女』では監督・脚本・編集・音楽を手掛け、第70回ベルリン国際映画祭で自身初となる銀熊賞(監督賞)に輝いた。25作目となる最新作『INTRODUCTION』(21)も、第71回同映画祭のコンペティション部門で銀熊賞(脚本賞)を受賞、2年連続の銀熊賞の快挙に輝いた。